[ サニーサイド ] Special Interview

「今をドキュメントする」をテーマに制作された
Qaijff のニューシングル [ サニーサイド ]特別インタビュー
「今をドキュメントする」をテーマに制作されたQaijff のニューシングル [ サニーサイド ]特別インタビュー

———4月に森さんの乳がんを公表、約1年半は治療優先で活動していくと発表してから4ヶ月後の新曲リリース。ファン・リスナーも思っていたよりも早い新曲リリースでとても嬉しいと思います。なぜこのタイミングのリリースになったのですか?
内田 4月に森の乳がんを公表して「活動休止」ではなく「治療優先で活動していく」と発表しましたが、その大きな理由は、毎日のモチベーションとして自分達自身がQaijffを必要としていると感じたからです。当然治療第一ですが「音楽をつくること」「音楽を届けること」も続けていくことが、心身にとって大切なことと思っています。治療が開始されてからも「早く新曲を届けたいね」と話をしながら楽曲制作をしていて、結果的に今夏のリリースになった、といった感じですね。
森 「サニーサイド」という曲自体は以前からあって、違うアレンジでライブでは数回披露していたんですけど、この曲の歌詞が、驚くほど今の心境にすっぽりとはまって。だから今このタイミングでリリースしたい、すべきだと思いました。
——— 森さんが乳がんと診断されて、治療が始まって、生活環境などの変化もあると思いますが、自身の考え方、音楽への取り組み方など心境の変化はありますか?
森 物事の考え方や普段思っていることは、病気になる前となった後で大きく変わったわけではないというのが正直なところなんです。自分の思考の根っこみたいなものというか…。音楽への取り組み方は、やはり治療のスケジュールやその時の体調次第で思うように活動できない日もあるので、やれる時に、やりたいと心が向かう時に、今の自分で表現しよう、今の自分だから歌える歌、鳴らせる音を鳴らそう、という意識でレコーディングに取り組みました。
内田 変化というより、今まで大切に思っていたことがより明確にはっきりしました。一人の人間としては、健康以上に大切なことはないこと、いつ何があるか分からないことだったり。アーティストとしては、ライブ、新曲リリースできること、メンバー、スタッフ、ファンがいること。ありきたりな言葉ですが、そのすべてが当たり前じゃないと感じています。当たり前じゃないって分かることはポジティブなことで、今この瞬間を大切にしたいとか、今この瞬間を楽しみたいって感情に繋がっていく。結局未来は「今」の連続だから、「今」を大切にすることが未来を大切にすることなんだなと。同じようなことをこれまでも知識として持っていたけどそれが心や身体に刻まれた、そんな感覚ですね。

———そんな心境の変化の中で「サニーサイド」リリース。温かく優しい歌詞やメロディが軸になっている中で、人間的なランダム性や呼吸を感じる生々しさや荒々しい質感が魅力の楽曲だと思います。どういう意図を持って制作された楽曲ですか?
内田 今回は「今をドキュメントする」というテーマを持って作ってみようと思いました。今の自分達を記録するような感覚で。「録りたい時に録る」スタンスでやりたかったので、制作のすべてをこのプライベートスタジオで行いました。楽曲は作品であるので作品としての脚色も当然大切で重要ですが、自分達の歩いてきた道のりや、今歩き出した道自体が、ある意味で作品的なストーリーがあると思っていて。だから、今は意識的に脚色しなくてもいい作品にできるという、なんとなくでぼんやりなんですが、でも輪郭をもった感触があったんですよね。今回はその予感に従ってみようと思って。例えばこれまでだったら消したくなっていたピアノのペダルノイズも活かしていて。ヘッドホンや、イヤホンの向こう側に自分達の存在を感じてもらえる作品になったと思います。
森 歌も演奏も生々しさを大切にしたいなと。歌は、今まででいちばん自由に歌えたような気がします。ピッチ(音程)ばっちし上手にカチッと歌おう!という意識ではなくて、人間ならではの、私ならではの揺らぎを大切にするというか。ピアノはスタジオのアップライトピアノで、これもこのピアノならではのあたたかな響きが録音できたと思います。歌詞に「涙がひらひらと落ちる夜」というところがあるんですけど。病院で、乳がんかもしれないと言われた日の夜が、まさにこの夜でした。むしろそのための歌詞だったように思えます。だけど、この涙は決して悲観的な涙ではなくて。今までの人生でいちばん綺麗な涙でした。大切な記憶です。

———これまでもQaijffのライブ、レコーディングで参加している佐藤祐紀(独立峰)もSaxで参加していて、今回も印象的なプレイが収録されています。今回なぜSaxを入れようと思ったんですか?
内田 最初はSaxを入れようと思ってなくて(笑)。僕個人でやっているCM音楽のレコーディングのために、佐藤くんにスタジオに来てもらったんですよ。それ以外にも佐藤くんには参加してもらってるので、最近結構な頻度でスタジオに来てくれるんですけど。その録音終わってから「Qaijffの新曲なんだけど、試しに吹いてもらえない?」って無茶振りをして(笑)。そうしたら「めちゃめちゃいい!」ってなって。そのまま採用しました。
森 「いいっ!」て直感が大事だよね。
——— 2022年リリース「通り過ぎていく」でも同じような話がありましたね。
内田 そうなんです。「準備されているものの良さ」はもちろんあるけど「準備されていないものの良さ」もあると思うんですよね。サニーサイドの制作期間中に佐藤くんとスタジオで時間を共にしていたことも今回のテーマに対しても親和性を感じたし。意味のある無茶振りだったと思います(笑)。

———最後にファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
内田 2023年始めに[Qaijff11周年]と銘打って今年は色々計画していました。コロナ前ぶりの東名阪ワンマンツアー、その他の地域へのライブも積極的にしたいなと。日程も押さえていた最中で、森の乳がんが発覚し、すべて一旦白紙にして。それでも手探りしている中で、今できること、今しかできないことがあることに気がついた。音楽を届ける人間として、それらをすくって届けていくことが大切と感じたんですよね。今はライブはなかなか計画的にできないけど、その分音源は届けていきたいと思っています。今回のサニーサイドはそのマインドでの一発目の楽曲。たくさん聴いていただき、ちょっと先の未来のライブのために、予習をしておいてもらえたら嬉しいですね。
森 音楽がやりたいから活動休止をしない!と決めたものの、実は弱気になってしまう時もあったんです。ライブが出来ないんだったら、潔く休む決断をした方が良かったんじゃないかって。だけど、やっぱりこうやって曲を作ってレコーディングして届けることができる、この喜びが私のエネルギーになるんだと、あらためて思い知らされます。自分がやりたくて続けている音楽を、受け取ってくれる人がいることが本当にしあわせです。ありがとうございます。「サニーサイド」があなたの日々のそばにあると嬉しいです。


サニーサイド
2023.08.26 digital release
【Download / Streaming】
https://linkco.re/vdc6nX0V
Lyrics:Akihiko Uchida, Ayano Mori
Music:Akihiko Uchida
Arrange:Qaijff
Vocal, Piano:Ayano Mori
Bass, Synthesizer, Chorus, All Other Instruments:Akihiko Uchida
Additional Musicians
Baritone Sax : Yuki Sato
Recording, Mix, Mastering:Akihiko Uchida
Artwork:Ayano Mori